翻訳出版プロジェクト
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『How We Get Free: Black Feminism and the Combahee River Collective』
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Audre Lorde『Cancer Journals+4 essays from Sister Outsider』
1.『私たちはいかに自由を得るか』(邦題未定)
(原典:Keeanga-Yamahtta Taylor eds, How We Get Free: Black Feminism and the Combahee River Collective, Haymarket Books, 2017.)
コンバヒーリバー・コレクティヴは、1974年にボストンで結成されたラディカルなブラックフェミニストの組織。彼女たちが起草した「コンバヒーリバー・コレクティヴ・ステートメント」は、ブラックフェミニズムの歴史において記念碑的なテキストとされています。当時のブラックフェミニストたちは、白人女性中心の第二波フェミニズム運動においても、黒人男性中心に展開されてきた公民権運動やブラック・パワー運動においても周縁化されることで、自分たちの固有の経験に基づいた運動や理論を必要とするようになります。その結果として彼女たちは極めてラディカルな解放のヴィジョンを築き上げていきました。このステートメントは「アイデンティティ・ポリティクス」や「インターセクショナリティ(交差性)」といった、現代の政治運動や言説において鍵となるような重要な考え方を先駆的に描き出しており、Black Lives Matter運動にも大きな影響を与えています。これからも何度でも立ち返っていくべきテキストであると言えるでしょう。
〜〜〜〜本の紹介〜〜〜〜
トランプ政権が発足した2017年、「コンバヒーリバー・コレクティヴ・ステートメント」の起草から40周年のタイミングで発行された。ステートメントのテキストと、これを起草したバーバラ・スミス、ビバリー・スミス、デミータ・フレイジャー、コンバヒーの理念を現代において実践する#BlackLivesMatterの共同創設者であるアリシア・ガーザのインタビューを収録。
目次
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Introduction
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The Combahee River Collective Statement
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Barbara Smith
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Bevery Smith
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Demita Frazier
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Alicia Garza
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Comment by Barbara Ransby
2. オードリ・ロード『キャンサージャーナルズ+シスターアウトサイダーより4編』(邦題未定)
(原典:Audre Lorde, The Cancer Journals, Aunt Lute Books, 1980.
Audre Lorde, Sister Outsider Essays and Speeches, Crossing Press, 1984.)
近年、「Your silence will not protect you(沈黙はあなたを守らない)」という言葉が日本でも複数の社会運動でスローガンとして引用されその名を広く知られることとなった詩人、オードリ・ロード。しかしその言葉が生み出された具体的な文脈や背景へのアクセスは、日本語圏ではいまだ難しい状況が続いています。コンテキストを飛び出して、一人歩きしてしまうほどインパクトの強いロードの言葉、その言葉を生み出すロード自身を知るためのテキストを紹介できるように準備を続けています。
〜〜〜〜本の紹介〜〜〜〜
『キャンサージャーナル』は乳がんの発見と右乳房の切除という経験を元にして書かれた三つのテキストからなる。1978年9月、44歳のオードリ・ロードは右胸にしこりを見つける。乳がんという病気をめぐる社会的な沈黙との闘い、また永遠の沈黙を強いる死に向き合うことを通して、ロードはそれまで黒人女性としてレズビアンとして直面してきた抑圧と沈黙に改めて目を向ける。ほかにロードの代表的な著作『シスターアウトサイダー』よりセレクトしたエッセイ4編を収録。
・目次(各タイトルは仮題)
Ⅰ 『キャンサージャーナルズ』The Cancer Journals
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「沈黙を言葉と行動に変えること」The Transformation of Silence into Language and Action
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「乳がん:あるブラックレズビアン・フェミニストの経験」Breast Cancer: A Black Lesbian Feminist Experience
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「乳がん:強さ 対 プロテーゼ(人工乳房)」 Breast Cancer: Power vs. Prosthesis
Ⅱ 『シスターアウトサイダー』エッセイ選集 Essays From Sister Outsider
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「詩は贅沢品ではない」 Poetry is Not a Luxury
「光」のメタファーとともに、詩がいかに私たちの経験を照らしだしてくれるものであるか、そしていかに生きのびること、思考することの源泉として感情と詩があるかを記述したエッセイ。思考=男性/感情=女性という本質主義的で短絡的な二元論とともに劣位におかれてきた感情こそが、あらゆる力をもたらすものである、というロードの感情・詩のイメージ、その筆致は、人びとの感情をとりまく因習的なジェンダー規範、社会規範をことごとく転覆させていくと同時に、「感じること」を大切にすることを力強く後押ししてくれる。 -
「主人の道具で主人の家は壊せない」 The Master's Tools Will Never Dismantle the Master's House
1979年、「第二の性 シンポジウム」の「Personal and Political Panel」に招かれたロードが、その場に登壇した黒人女性がごく僅かであったことを受け、白人中心主義的なフェミニズムに対し激烈な批判を加えたスピーチ。家父長制と結びついて作用・機能しているレイシズムや異性愛主義、エリート主義に疑義を呈さないフェミニズムは、家父長制を壊すことは不可能であると看破した。互いの差異を無視することなく、変化のための力を生む契機とするよう呼びかけた、記念碑的なテキスト。 -
「会話:オードリ・ロードとアドリエンヌ・リッチ」 A Conversation between Audre Lorde and Adrienne Rich
「レズビアン連続体」「強制的異性愛」といった概念を生み出したレズビアン・フェミニストの詩人、アドリエンヌ・リッチとの対談。ロードとリッチの親交は深く、相互に影響関係にあったことが知られている。 -
「目から目へ:黒人女性、その憎しみと怒り」 Eye to Eye: Black Women, Hatred, and Anger
黒人女性の間に生じる怒りや憎しみについて恐るべき密度で分析した、衝撃的な中編。母娘、姉妹、親友や恋人といった親密な関係から、路上や図書館で偶然出くわしただけの通りすがりの黒人女性に至るまで、どういうわけか生じてくる激しい怒りと憎悪。お互いの本当の敵ではないはずなのに、どうして私たちはこんなにも愛し合うことが難しいのだろう?
考察を進めるうち、黒人女性が生まれた瞬間から社会によって憎悪を浴びせられること、次第にその憎悪を「代謝」して怒りに変え、生き延びるための力としていることが明らかになる。ロードの思考は自身のパーソナルな経験から、時空間を超えてアフリカ・ダホメ王国の女戦士にまでたどり着く。詩や神話、手紙など様々な形式の文章が自在に結びあわされた、きわめて実験的なエッセイ。